Clap your hands!

性格なのか?環境なのか?



生ぬるい空気が肌にまとわりつく。
ネアポリスらしくない夜だった。
ジメジメしているのに、喉の奥がぱりぱりと貼りつくように渇く。
とても寝ていられず、イルーゾォは起き上がった。長い髪の毛を手でかき回す。
冷蔵庫を開けると、生活感の死にかけた部屋にオレンジ色の明かりが細く射し込んだ。暗闇に映し出される眠たげな眼が、眩しそうに扉の奥を睨みつけた。
(なんもねぇな)
ペットボトルをそのまま傾けて水を飲む。
渇きが癒えればと思ったが、不思議なことに腹に冷たい感覚が流れ込むと、胃が刺激されたのか腹がすいてきた。
しかし冷蔵庫の中身は少なく、飲料水と酒、バターとパスタくらいしか入っていない。
作る気にもなれず、材料もなく、ため息をつく。同僚の部屋から何かかっぱらって来ようと決めた。
鏡からお邪魔しないのはせめてもの情け。
簡単に身支度を整えたイルーゾォは、サンダルをつっかけて、フードを被ったままだらだらと鍵を開けた。

夜に響いた『ガチャリ』に交じって「ひょぁ」と引きつった声がした。
聞き覚えのある声だ。

イルーゾォはため息をついた。
「ナニしてんだ、こんな夜中に」
「イルーゾォさん……」
跳ねた胸を押さえる姿は小動物のようだ。
寒がりなイルーゾォには到底信じられないカーディガン(彼はそれをただの布だと思った)を羽織り、「ちょっと寄り道を……」と恥ずかしそうに笑っている。
「中華料理屋さんで肉まんセールをやっていて。ついたくさん買っちゃったので、お友だちにおすそわけをしていたんです」
「ふーん」
肉まんねえ、と視線を下げる。
カーディガンの胸元に抱えられた紙袋には有名どころのロゴがあり、まだ中身も入っていそうだ。
「俺も買う」
「え、もうセールの時間は……」
「ハ?……ああ、お前からだよ。一個買わせろ」
ホルマジオにたかるよりよっぽど良い取引だ。考えてみると肉まんが食いたい気もしてきたし、ちょうど良い。
あわてたのは少女である。
財布を取りに踵を返したイルーゾォに追いすがる。
「お金ほしくない!肉まん、あげる!ともだち!分ける!私はそう思っています!!」
「聞き取りづら」
急なことで文法がすっ飛んだのか、とてつもない片言だった。
言語習得に特別な才能を持ち、今や多言語をぺらぺらと操る――――ときがなくもない――――彼女にしては珍しい姿だ。
「タダでくれんの?」
「当たり前じゃないですか!」
「へー……」
長い黒髪が訝し気に揺れた。
いっそ無邪気な表情だった。
「くれるなら、食うけど……」
「そもそも売るつもりなんてありませんから……」
二人して、わけがわからん、と肩をすくめる。

これもカルチャーギャップの一つなのかと、アンダーグラウンドな心構えを新たにするスタンド使いであった。




▼次の日、お返しに同じ肉まんが寄越された。
←back main next→