Twitter log

モンスターハンティング


本編後 付き合っている

「罠、仕掛けます!」
「わかった!誘導する!」
まるで戦場かのようなセリフだが、ここは平和なスティーブン宅である。
ソファに並んで座るレオナルドとが何をしているかと言えば、それは新発売されたアクションゲームだった。

どうしても欲しい、とバイト代を貯めて購入したらしいゲーム機とゲームソフトを胸に抱き、ニコニコと輝かんばかりの顔で「レオのところに泊まってくる!」と元気いっぱい外出許可を申請した恋人に、もちろんスティーブンは首を振ってやった。横へ。
青年がいかに信頼できる人間性を持つかは知っていても、年頃の男の家に恋人が遊びに行き、加えて宿泊することを良しとする男がどこにいるだろう。少なくともスティーブンはそこまで寛容ではなかったし、レオナルドだって『泊まり』の部分は冗談だろうなと思ってアハハと笑って流していただけだ。普段なら容易に察するはずのだが、ゲームが楽しみすぎて正気を失っていた。
は、玄関先に立ちふさがるスティーブンに小首を傾げた。
「ね、行っていい?」
「だめ」

というわけで、逆に招かれたのはレオナルドのほうだった。
初めこそ恐縮して萎んだ風船のような顔をしていたものの、ゲームを始めてみればそちらに熱中してしまうのか。勧められるままの隣に腰を落ち着け、活き活きとゲーム機のボタンをカチャカチャやっている。
スティーブンは遊びの邪魔にならないよう私室へ移動し、PCを開いてみた。
新発売のゲーム『モンスターハンティング・ムーンブレイク』は若者に大人気らしい。軽く検索しただけで記事がずらりと現れ、一週間前に発売されたとは思えない量の攻略情報もまとめられている。
はこういったゲームには興味がないと思い込んでいたが、ヘルサレムズ・ロットで色々な人物に会い、刺激を受けることで世界が広がったのだろう。スティーブンはその変化を喜ばしいと素直に感じた。それくらいは大人だった。
扉の向こうから、キャッキャとはしゃぐ声がする。
「倒せたー!」
「討伐任務行けましたね!」
「めっちゃ嬉しい!え、うれしー!レオってボウガン得意なんだね」
さんの双剣あってですよ。……双剣とボウガンでマガマガってマジでやばかったですけどね」
「下位だからできたのかも。別の武器も試してみよ!その前におやつ食べない?」
「あ、僕持ってきました。ポテチとチョコで良ければ」
「やった!スティーブン呼んでくる!」
「セール品で良かったかな……」
手土産として渡された紙袋以外にも持参品があったらしい。気の利かせ方に定評がある青年、レオナルド・ウォッチ。どこかの誰かに多少でも見習わせたい。
やがてココンコンとノックがあり、が顔を覗かせた。
「おやつたべる?」
「頂こうかな」
スティーブンが立ち上がれば、の目元はうれしそうに弓なりを描いた。

雑然とひろげたスナック菓子をつまみつつ、スティーブンは問いかけた。
「そんなに面白いのかい?」
「うん、面白い!一見勝てないーって感じの敵も工夫次第で倒せたり、簡単に3回死んだり……あ、3回で任務失敗になるんだけど、あ、任務っていうのは、もともと新天地に拠点を構えるーって感じの舞台で、陣地を増やすためだったり謎を解くためだったりで近くのモンスターをシュリョーしたりトーバツしたりする任務があるんだけどね、その任務をジュチューしたら戦いの舞台に送られてね、それで、戦いのうちに3回やられちゃうと任務失敗的なのになって集会所ってトコに送り返されちゃうの。そういうヒリつき?ってやつ?が楽しくて好き!」
説明がところどころ曖昧なのは置いておいて、うんうんと頷いて聞く。プレイしている人間が一番ふわふわしていてどうする。
「あとねあとね、素材を集めたら可愛い装備も作れるの!」
のきらきら輝く瞳がまっすぐスティーブンを見つめる。装備よりも今ののほうが数倍は可愛らしいだろうなと彼は思った。レオナルドの手前、浮いた思考はおくびにも出さなかったが。
「スティーブンもやってみたらいいかも!」
「……え、僕が?」
は自分のゲーム機をスティーブンに差し出した。
「うん。レオうまいよ」
レオナルドはスティーブンの視線を受け、に隠れて『ぼくはいやです』と全力で首を振った。
しかしさすがのスティーブンも、インターネットでかじっただけの知識でうまくプレイできる自信はない。
「あまりそういうゲームをやったことがないんだ」
基本がチェス、将棋、トランプゲーム、たまに誘われてカタンを嗜む男である。
レオナルドは全身全霊で機転を利かせた。
「あの、さんが教えてあげたら良いんじゃないですか!?」
「えー!私うまくないよー!」
「ジャグラスとかバギィくらいなら操作感もわかるし、素材も剥ぎ取れますし、僕らも単騎で倒せるレベルですから」
「そっか……?」
「僕のゲーム機貸すんで、はい、スティーブンさんこれ」
珍しく有無を言わさぬレオナルドに気圧され、押しつけられるままゲーム機を受け取ってしまった。
「まず武器変えましょっか。この一覧から、パッと見て興味を惹かれる武器ありますか?」
てきぱきと準備を整えていく青年は、スティーブンに眼差しで強く訴えた。せっかくだから遊んであげてください、と。
気後れするは野良マルチに参加するつもりがないようで、さまざまな人と一狩りする機会がなかなかないのだ。レオナルドはそんなをちょっとだけ、可哀そうに思ってしまっていた。
自分のわがままだとしても、この楽しい時間を引き延ばしてあげたいと感じるほどには親愛の情も深かった。
気持ちが伝わったのだろう。
「わかったよ。初心者向けの武器はある?」
スティーブンはゲーム機を受け取り、レオナルドとの間に腰を下ろした。
「大剣か槍か、ライトボウガンとかですかね。ボウガンは遠距離向きで、僕も使ってます。気絶弾とかが撃てるので敵をピヨらせ、……えーと……気絶させたり毒状態にさせたりできますね」
「じゃあボウガンにしよう。きみの装備に便乗できそうだし」
「確かに、少し鍛えたからそれもありですね。このボタンで照準を定めて、これで撃ちます。弾の種類はここを押しながらこうして……こう変えます」
「ふむ」
何度か操作を繰り返し、優秀な男は全部をおぼえた。「つまりこういうこと?」と新システムのコマンドまで自己流で見出す始末。
レオナルドは『なんだこの人』と目を白けさせた。教え甲斐があるようなないような。

教官はわくわくしたままスティーブンに身を寄せた。そこに照れなど存在しない。同じ敵を倒す仲間に、浮ついた気持ちを抱くはずがないのだから。
「スティーブンすごい!うまいねー!レオみたい!」
「それは光栄だ」
ちなみに、恋人の前でほかの男を引き合いに出す行為はあまり褒められたものではない。青年の心は常に冷や冷やしっぱなしだった。
「……って、でっかいの来てる!」
「こうやってボス級が通りすがるのはよくあることなのか?」
「ありますねぇ」
「あるよ!どうせなら倒してみよ!」
「わかった、頑張ってみるよ」
気焔万丈の精神のもと、突進攻撃がゆたかなボス級相手に双剣(初心者)とライトボウガン(初心者)の戦いが始まった。

「やば、回復してくるね!」
「引きつけるよ……って、速いな!?」
「あ、その敵の攻撃トリッキーなので気をつけてください!毒入れると良いかもです」
「的確な助言ありがとうレオナルド。持つべきものはボウガン使いの先輩だな」
「や、やめてくださいよ……」
「レオは強いからねー。あっやばい、もう1匹きた」
「そいつやばいです!!いったん逃げて……」
「すまん死んだ」
「わーっ!!私の力が及ばないばっかりにー!?ごめんねスティーブン……」
「いやさん、僕の装備じゃ無理ですアレ」
「死ぬとこんなに乱暴に搬送されるんだな……」

わいわいきゃいきゃいと全力ではしゃぎ倒し、練習の結果、スティーブンは己に太刀の適性を視た。
「楽しかったね、スティーブン、レオ!」
は頬が紅潮するほど興奮して、休憩中もなお冷めやらぬといった様子だ。
最終的には立場も緊張も忘れて指導と観戦に熱が入ったレオナルドも、チョコをつまみながら朗らかな顔をより明るくさせている。
スティーブンも、実は途中から『若いゲーム』に楽しみをおぼえていた。モンスターを狩る過程や成功した時のカタルシスは、ストレス解消にも良さそうだ。
「僕も買おうかな、モンハン」
「えっ、嬉しい!そしたらまたやれるね!」
「良いじゃないですか!マルチプレイ楽しかったですもんね」
目の前で通販サイトにアクセスし、ゲーム機本体との同梱セットを購入すると、わっと部屋に歓声が上がった。
可愛いやつらだな、とスティーブンの心は金で買えない和みを得た。




main